新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大は、現在も国内外で人々の健康・生命のみならず社会経済活動に甚大な損害を与えています。また、今後新たな変異株や新たな感染症の発生も懸念されています。こうした状況を踏まえて、感染症対策を講じながら社会経済活動を進める、感染症リスクに対してレジリエントな社会を構築していく必要があります。

 感染症リスクに対してレジリエントな社会とは、機動的な対応と医療提供ができる社会であり、感染状況が的確に把握でき、行政及び市民が適切な対策行動がとれる社会といえます。下水サーベイランスはこうした社会を支える有効なツールとすることができます。下水サーベイランスは、下水等の環境水中の病原体等を測定することにより集団レベルでの疫学情報を取得することで感染状況を把握し、感染対策を推進するものです。この手法に基づく情報は、無症状者を含めて地域全体を把握することから、代表性、即時性、効率性が高いものといえます。また、この手法は、非侵襲的(被検者の身体的負担がない)に匿名性を保ちながら検査を行うことができます。

 下水サーベイランスの社会実装により、各地域で感染状況を把握し活用することで、効果的な感染症対策を講じることができ、市民の基本的感染対策行動を促し、社会経済活動への影響を最小限にとどめ、保健所・医療機関への負荷軽減、医療物資・人材の効率的配分も実現できる大きな可能性を有しています。

 また、下水サーベイランスの社会実装には次のような課題もあります。

  1. 高感度分析法の確立と普及
  2. 効率的な実施体制の構築
  3. 感染症対策における活用方法

 現在、これらの課題を克服するために下水サーベイランスの手法確立の取り組みが進められていますが、下水サーベイランスをより効率的かつ効果的に社会実装していくためには、下水サーベイランスに関わる産学を含む関係者の横断的な連携と実施体制の構築が不可欠となっています。社会実装に向けて幅広く取組みを推進していくプラットフォームが必要です。  このような認識のもと、今般、コンサルティング、採水等作業、検査業務、理化学機械器具製造・販売、試薬等製造・販売、施設維持管理等の業務を担う民間企業と学識者が連携し、下水サーベイランスの社会実装を推進する一般社団法人日本下水サーベイランス協会を設立いたしました。 本協会は、日本における社会実装に向けた取り組みを海外にも積極的に発信し、海外と連携をとって事業を推進していく所存です。